「前にも同じ不具合、なかった?」
よくある場面
「SUSの部品で、内径の仕上げ面にびびりが出ている。前にも似たようなこと、なかった?」
経験豊富な社員なら、「確か、あの部品で工具の突出しを短くしたはず」と過去の報告書や加工条件を探してくれるかもしれません。
では、同じことをAIに聞いたらどうでしょうか。AIなら社内に蓄積された記録から、すぐに探してくれそうです。
しかし、AIが何でも勝手に探せるわけではありません。何を手がかりに、どのような方法で探すかによって、見つかる情報は変わってきます。
前回の記事では、社内の情報を「探せて、つながる状態」にすることの大切さを紹介しました。今回はその一歩先、AIは社内の情報をどのように探しているのかを考えてみます。
条件がはっきりしていれば探しやすい
「SUSの部品」であれば、材質がデータベースに登録されていれば対象を絞り込めます。同じように、次のような条件も、項目として管理されていれば正確に検索できます。
- 2025年以降に加工したもの
- 特定の顧客向けの製品
- 指定した品番・図番
- 特定の加工機で加工したもの
これは従来の業務システムやデータベースが得意としてきた分野です。
しかし、「内径の仕上げ面にびびりが出た」という部分は、少し探し方が違ってきます。
同じ現象でも、記録する言葉は人によって違う
例えば、過去の記録に次のような内容が残っていたとします。
🧾 不具合報告書
「内径仕上げ面に縞模様。工具の突出し長さを短くして改善」
📋 加工条件メモ
「ボーリング時に振動、面粗さNG。回転数を下げて対応」
📝 作業日報
「仕上げ面がザラつく。防振タイプの工具に変更」
※3件とも「びびり」という言葉は使われていません
どれも同じ「びびり」の対策記録である可能性があります。しかし「びびり」という言葉で検索すると、違う言葉で書かれたこれらの記録は1件も見つかりません。
そこで利用が広がっているのが、言葉そのものではなく、文章の意味の近さで探す方法です。代表的な技術が「ベクトル検索」で、文章の特徴を数値に変換し、その近さから関連しそうな記録を探します。
🔤 キーワード検索
「びびり」という言葉が入っている記録を探す
見つけられる書き方
上の3件 → 0件ヒット
🧭 ベクトル検索
「びびりが出た」という内容から、意味の近い記録も候補として探す
見つけられる書き方
上の3件 → 3件とも候補に
ただし、ベクトル検索はあくまで意味が近い「候補」を探す技術です。見つかった記録が目的に合っているとは限らないため、元の記録を確認することも大切です。
また、ベクトル検索にも苦手なことがあります。品番や図番、数値のように「1文字でも違えば別物」になる情報です。例えば「A-1023」を探したいのに、似た並びの「A-1032」まで近い候補として出てきてしまうことがあります。こうした条件は、従来の検索で正確に絞り込むほうが確実です。
大切なのは、2つの探し方を組み合わせること
どちらの検索が優れているか、ではありません。それぞれ得意な探し方が違うということです。最初の質問には、2種類の探し方が含まれています。
「SUSの部品で、内径の仕上げ面にびびりが出ている。前にも似たようなこと、なかった?」
「SUSの部品」
材質という条件で
正確に絞り込む
「仕上げ面にびびり」
不具合や対策の記録から
意味の近いものを探す
AIを組み込んだシステムなら、質問から材質の条件を読み取ってSUS材の部品に絞り込み、その中から内容の近い記録を探して、例えば次のように回答できます。
💬 SUSの部品で、内径の仕上げ面にびびりが出ている。前にも似たようなこと、なかった?
🤖 AIの回答例
SUS材の部品から、似た不具合の記録が3件見つかりました。工具の突出し長さや工具の種類を見直して改善した例が2件、回転数など加工条件の調整で対策した例が1件です。それぞれの報告書と当時の加工条件を確認できます。
※上記は仕組みを説明するための架空の例です。
このとき、AIが毎回すべての記録を読んでいるわけではありません。条件での絞り込みや意味の近さでの検索で関係しそうな記録を探し、必要な部分だけをAIに渡して回答を作らせます。これはRAG(検索拡張生成。第5回で紹介)でもよく使われる考え方です。
もちろん、AIを入れるだけで実現できるわけではありません。どの記録を検索対象にするか、どの項目を条件に使うかといった仕組みは、あらかじめ用意しておく必要があります。そのうえで、人がシステムの検索方法を覚えるのではなく、システムが人の言葉に合わせて探す——これがAIを社内システムに取り入れる大きなメリットです。
検索のゴールは「見つけること」ではない
似た不具合の記録が見つかれば、それだけでも調査の手間は減ります。しかし本当に大事なのは、その先です。
過去の対策が今回もそのまま使えるとは限らず、最終的には人が判断する必要があります。それでも、担当者の記憶を頼りに探していた情報を記録から見つけ出せれば、「どこに情報があるか」を探す時間を、「今回どう活かすか」を考える時間に変えられます。
蓄積してきた経験を次の仕事の判断に活かせるようにすることにあるのではないでしょうか。