「データがある」と「AIで活用できる」は同じではない
- 図面はPDFで保存してある
- 製造実績は基幹システムに入っている
- 不具合報告書や加工条件もExcelで残している
製造現場には、これまでの仕事を通じて多くの情報が蓄積されています。
では、これだけデータがあれば、AIを導入したときにすぐ活用できるのでしょうか。
必要な情報が複数のシステムやファイルに分かれていたり、どの情報とどの情報が関係しているのか分からなかったりすると、AIを使う以前に、人が情報を探して整理しなければなりません。
今回は、「デジタル化した情報を、どうすれば活用できる状態にできるのか」という視点から、これからの製造業の情報管理について考えてみます。
「データはある」のに見つからない
製造業には、日々の仕事の中でさまざまな情報が蓄積されています。例えば、
以前は紙で管理していたものも、現在では多くの企業でデジタル化が進んでいます。
ところが、実際に不具合が発生して、
- 以前にも同じような不具合はなかったか?
と調べようとすると、途端に大変になります。
色々探し回った末に「この件、○○さんが詳しかったはず」と、結局は詳しい人に聞く。
情報はデジタル化されているのに、必要な情報を探すのは人の経験や記憶に頼っている。こうした状態は珍しくありません。
デジタル化は「ゴール」ではない
例えば、過去10年分の不具合報告書をすべてPDFにしたとします。
紙を探す必要がなくなり、保管もしやすくなります。これは大きなデジタル化です。
しかし、数千件のPDFの中から、
- この製品で過去に発生したキズの事例を探したい
となったらどうでしょうか。ファイル名が、
- 品質報告書_001.pdf
- 不具合報告_20260510.pdf
といった名前だけでは、一つずつ中身を確認しなければならないかもしれません。
大切なのは、単にデジタル化するだけではなく、あとから必要な情報を見つけ、活用できる状態にしておくことです。
大切なのは「情報をつなげる」こと
製造業の情報は、一つひとつが独立しているわけではありません。
例えば、ある製品について考えてみると、図面があり、製造履歴があり、加工条件があり、不具合の記録があり、そのときに撮影した写真や対策内容があります。これらはすべて、その製品に関係する情報です。
ところが、実際にはそれぞれ別のシステムやExcel、共有フォルダなどに保存されていることが少なくありません。
情報そのものは存在していても、「何と何が関係しているのか」が分からなければ、活用するためには人が情報をつなぎ合わせる必要があります。
例えば不具合が発生したときに、
- この製品では過去にどんな不具合があったのか。
- どんな加工条件だったのか。
- どのような対策を行ったのか。
といった関連する情報をたどることができれば、過去の経験を次の仕事に活かしやすくなります。
単に情報を「保存する」のではなく、あとから探せて、さらに関連する情報までたどれる状態にしておく。これが、蓄積した情報を会社の資産として活用するための大切なポイントです。
AIなら全部探してくれる?
ここで、
- 今のAIなら、保存してあるデータを全部読ませれば勝手に探してくれるのでは?
と思うかもしれません。
確かに、現在のAIは大きく進化しています。文章だけでなく、PDFや画像など、これまでコンピューターが扱いにくかった情報も利用できるようになってきました。
そのため、AIを使うためにすべての情報をきれいにデータベース化しなければならない、というわけではありません。
一方で、AIがどれだけ賢くなっても、社内に存在しない情報まで知ることはできません。
また、情報同士の関係が分かることも重要です。製品と図面、製造履歴、不具合、加工条件、写真、対策内容などがつながっていれば、必要な情報を探したり、関連する情報をたどりやすくなります。
- 紙のまま保管され、デジタル化されていない報告書
- ベテラン社員の頭の中にしかないノウハウ
- どの製品の話なのか、誰にも分からない記録
- デジタルで保存され、AIから読める状態にある
- 製品番号や日付などで探せるようになっている
- 製品を軸に、図面・不具合・条件・写真がつながっている
「デジタル化」から「活用できる情報」へ
では、どのような状態を目指せばよいのでしょうか。難しく考える必要はありません。
例えば、不具合情報なら、
-
デジタル化する
紙だけに残っている報告書や写真などを、デジタルで扱える状態にします。
-
あとから探せるようにする
製品番号、不具合の種類、発生日など、必要な情報から検索できるようにします。
-
関係する情報をつなげる
製品を軸に、図面、製造履歴、加工条件、不具合、写真、対策内容など、関係する情報をたどれるようにします。
-
仕事の中で活用する
「この製品で過去に発生した不具合は?」「似たようなキズが発生した事例は?」といった形で、必要なときに過去の情報を利用できるようにします。
-
そして、この先にAIがある
蓄積され、つながった社内の情報を、AIやAIエージェントが探し、整理してくれるようになります。
例えば、
- 「今回の不具合と似た過去事例を探して、当時の状況や対策をまとめて」
とAIに依頼し、社内に蓄積された情報から必要なものを探してもらう。
さらにAIエージェントであれば、複数の情報源を調べながら、関連する情報を集めて整理する。そんな活用につながっていきます。
例:情報がつながっていると、AIはこう動ける
人が「今回の不具合と似た過去事例を探して、当時の状況や対策をまとめて」と依頼すると、
- 不具合記録から、同じ製品・同じ種類の不具合を検索する
- 見つかった事例から、当時の図面・加工条件・写真をたどる
- そのときに行った対策内容を確認する
- 「過去の類似事例・当時の条件・対策」を一覧にまとめて提示する
人はまとめられた結果を見て、今回の対応を判断する。「どこに何があるか」を探し回る作業はAIが引き受けます。
※AIエージェントについては、第9回「AIとAIエージェントは何が違う?」で詳しく解説しています。
まずは「よく探している情報」から
では、AI時代に備えて、社内にあるすべての情報を整理しなければならないのでしょうか。それでは大変です。
まずは、現場で「よく探している情報」は何かを考えてみるのがおすすめです。
| 現場でよくあること | まず始めるところ |
|---|---|
| 「過去の不具合をよく探している」 | 不具合報告書から始める |
| 「この部品、昔作ったことがなかったかな?」とよく探している | 図面と過去の製造実績から始める |
| 「この加工、前回はどんな条件だった?」とベテランに聞いている | 加工条件を記録するところから始める |
最初からすべての情報を整理し、完璧な仕組みを作る必要はありません。
それだけでも現在の仕事は便利になります。そして、その蓄積が将来AIを活用するときの土台になります。
AIのためではなく、自社のために情報を残す
生成AIやAIエージェントが注目されると、
- AIを導入するために、データを整備しなければ
と考えてしまいがちです。しかし、本来の目的はAIを使うことではありません。
図面、製造実績、不具合、加工条件、現場のノウハウ。こうした情報は、これまで会社がものづくりを続ける中で蓄積してきた大切な情報です。
まずは、それを必要な人が、必要なときに見つけ、関連する情報までたどれる状態にしておくこと。それだけでも、情報を探す時間の削減や、不具合対応、技術伝承など、さまざまな場面で役立ちます。
そして将来、AIやAIエージェントがさらに仕事の中に入ってきたとき、その情報をAIも活用できるようになります。
その積み重ねが、これからのAI活用につながっていくのではないでしょうか。
図面・製造実績・不具合報告書・Excelなど、社内に蓄積された情報を、必要なときに探し、関連する情報までたどれる仕組みづくりをご支援しています。
「今あるデータで何ができるのか?」という段階からでも、お気軽にご相談ください。